「障がい者の就労を考えるつどい2015
障がいのある人が働きやすい職場をめざして
~改正障害者雇用促進法の障害者差別禁止・合理的配慮について考えよう!~」
のご報告
11月11日(水)、三鷹市・武蔵野市・ハローワーク三鷹の3所合同開催で「障がい者の就労を考えるつどい2015」を三鷹産業プラザにて行いました。合同開催は今年で8回目になります。
2006年に国連で採択された障害者権利条約を我が国が批准するにあたり、法整備の一つとして2013年障害者雇用促進法が改正されました。来春には雇用の分野における障がい者の差別の禁止と合理的配慮の提供義務化が行われます。このことについて、障がい当事者や家族はどのように理解するとよいか、企業・事業所にはどのようなことが求められるのか、就労支援に携わる関係者はどのように実践に活かすとよいかなど、知りたいことは多くあると思います。改正障害者雇用促進法の障害者差別禁止・合理的配慮について、様々な立場の方々と理解を深め、ともに考え共有する機会にしたいと思い、今回のつどいを企画しました。
開会にあたり、三鷹市、武蔵野市よりご挨拶をいただきました。三鷹市の清原慶子市長は公務出張のため、津端修副市長よりご挨拶と市長からのメッセージをご代読いただきました。「来年の平成28年4月から、今まで以上に雇用の分野においても障がい者に対する差別の禁止と、合理的配慮の提供が義務付けられることとなります」「障がい者施策をさらに推進させ、『共生社会』を実現するためには、国や自治体だけでなく、地域の皆様、関係者の皆様お一人おひとりによる日々の絶え間ない取り組みが不可欠です。本日のつどいで理解が深まり、ご参加いただきました皆様の今後の取り組みがさらなる広がりをもって実践されていくことを心から願っています」とのお話でした。武蔵野市の邑上守正市長からは、「障がい者の就労では様々な課題がありますが、つどいの場で課題をお話しいただくことが次につながると思っております。また、武蔵野市内の福祉団体も障がいのある方の働く場の提供を考えてくださっております。そういった場が広がっていくことが課題と思っております」「5年後のパラリンピック、東京オリンピックの時には、この地域で障がい者が皆様と同じようにがんばって働いているということを、世界の方に是非見ていただければよいと思っております」とお話しいただきました。
【行政報告 「障害者雇用の現状と改正障害者雇用促進法について」】
はじめに、ハローワーク三鷹、雇用指導官の多田修氏より行政報告がありました。まず、障害者雇用の現状については、雇用者数がほぼ毎年着実に増加していること、特に精神障がいの方は求職者数、就職件数とも増加が著しいこと、雇用率は今年も昨年を上回ると予想されていること、がポイントと説明がありました。次に、改正障害者雇用促進法については、今年3月に公布された指針をもとに説明がありました。雇用分野での障がいを理由とした差別禁止と合理的配慮の提供義務はすべての事業主の法的義務であり、対象者は障害者手帳所持者に限定されない点で障害者雇用率制度と違いがあること。差別の禁止は募集・採用、賃金、昇進、教育訓練、福利厚生など雇用のすべての項目においてであること。合理的配慮は募集・採用時は障がい者から申し出て(困難な場合は就労支援機関の補佐も可能)、採用後は事業主から確認を取ることから始まり、合理的配慮の措置について双方で話し合い理解し合うことが求められること。合理的配慮の提供義務は事業主の過重な負担を及ぼすこととなる場合を除くが、過重な負担とした判断を障がい者に説明したり過重な負担にならない範囲で措置を講じたりすることは求められること。以上の点について説明がありました。合理的配慮の具体例では、種々の障がいに共通する採用時における配慮として、業務指導や相談に関し担当者を決めること、出退勤時刻・休暇・休憩に関し通院・体調に配慮すること、本人のプライバシーに配慮した上で他の労働者に対し障がいの内容や必要な配慮等を説明すること、の3点があげられました。
【講演 「改正障害者雇用促進法が求める働く障害のある人への対応、とくに『合理的配慮』を中心に考える-障害者権利条約を踏まえて-」】
次に、法政大学名誉教授松井亮輔先生よりご講演をいただきました。まず、国連で障害者権利条約が制定された背景としては、1948年の世界人権宣言や1966年の自由権規約と社会権規約の採択によって、すべての人がすべての権利や自由を享有することができるようにする意図があったものの、障がい者の取り組みは必ずしも十分ではなかったということによる、とのことでした。権利条約が目指す社会のあり方は、障がい者の社会への完全かつ効果的な参加及び包容、いわゆるインクルージョンであり、障がい者の社会参加が困難なのは本人の機能障がいだけでなく社会的障壁にもよるとされること、社会的障壁を取り除くための合理的配慮を提供しないことも障がいに基づく差別とされること、と権利条約に規定されました。雇用の場でもこのような考え方を反映させることとなり、障害者雇用促進法が改正されました。合理的配慮の基本的な考え方としては、いわゆるユニバーサルデザインを基礎に障がい者の状況に応じて個別に実施されることが重要であること、事業所の過重な負担か否かも個別に判断する必要があること、事業主は障がい者と話し合い、その意向を十分に尊重する必要があること、事業所には合理的配慮等にかかる相談体制を整備するよう求められること、などとご説明いただきました。最後に、障がい者雇用の量の確保を目指す雇用率制度と、雇用の質を求める差別禁止という二つの理念が改正障害者雇用促進法に含まれていることから、障がい者雇用の改善を質量両面でどのように折り合いとバランスを取っていくか、が今後の課題であるとお話しいただきました。
【実践報告① 三鷹市障がい者就労支援センターかけはし】
まず三鷹市障がい者就労支援センターかけはしより、「ピンチがチャンス トラブルからはじまる合理的配慮」と題して、ゆうせいチャレンジド株式会社ありがとうセンター支店様との取り組みについて報告しました。ゆうせいチャレンジド株式会社ありがとうセンター支店様はつどい当日が会社設立5周年の記念式典にあたり、会場にはお越しいただけませんでしたが、実践報告の資料作成に多大なご協力をいただきました。知的障がいのあるAさんの悪気のないトラブル発生から終結まで、Aさんを中心にして会社様とご家族、かけはし職員が三位一体の協力体制を作り、取り組みました。トラブルの事実確認を丁寧に行った後三者で支援会議を開催し、それぞれの取り組みを確認して進めました。会社ではトラブルを避けるためのルール作りと、ルールの定着のためのツール作りに試行錯誤していただきました。ご家族には電話や連絡帳で会社とかけはしとの情報共有をしていただいたり、ルールを日常生活にも取り入れていただいたりすることで、ルールの定着を図りました。かけはしはAさんの行動観察から課題を明確にし、解決に向けての提案をしました。Aさんのことを三者が十分に理解した上で、Aさんを中心に解決のプロセスを進めたことが、結果的に会社における合理的配慮を生み出すことができた、と報告しました。
【実践報告② 武蔵野市障害者就労支援センターあいる】
武蔵野市障害者就労支援センターあいるからは、公益財団法人武蔵野生涯学習振興事業団様での取り組みについて報告がありました。まず、大久保宏管理課長様より事業団のご説明として、平成元年に設立し、主に生涯学習とスポーツ振興に関する事業、武蔵野市の施設の管理運営(総合体育館、武蔵野プレイスなど)に関する事業を行っており、事業団全体で法定雇用率に達している、とお話しがありました。次に、事業団で働いていらっしゃるお二人の精神障がいの当事者の方々の就職までの経過や業務内容、会社で困っていることなどについて、あいると就労移行支援事業所ジョブアシストいんくる矢澤潤一様とともにご報告いただきました。お一人目の方は、あいるでの面談を重ね委託訓練を経て事業団に就職され、週20時間勤務で洗濯や清掃、PC入力などの業務を行っていらっしゃいます。職場で困っていることはなく、体調の良くないときは勤務時間の調整をしていただいているとのことでした。お二人目の方は、就職への準備に十分時間をかけたいというご希望に沿ってジョブアシストいんくるで準備を進め、武蔵野市役所での庁舎内実習などで徐々に自信をつけて、事業団に就職されました。週30時間勤務で書架の整理や公園清掃などを行なっており、職場で困ったことはないとのことでしたが、矢澤様からは「話すことで相手の負担や迷惑になることを心配する気持ちが強い方なので、困ったことをご本人から聞き取り、職場にフィードバックするようにしています」とのことでした。大久保様からは職場でのお二人への配慮として、職員皆にご本人たちとコミュニケーションをとるように伝えていること、いろいろな職員と一緒に仕事ができるようにしていること、の2点をご説明いただきました。最後にお二人から会場の皆様へのメッセージをいただきました。「企業の方には、うつ病でも仕事に出られる能力のある人はいるので、実習や採用を考えてほしい。うつ病の方には、一人で考え込まないで、就労支援センターなど味方をつくってほしい」「利用者の方には精神科や心療内科を利用して、自分の本質や得手不得手など考えて生活していってほしい。企業や支援者の方には、信用し合って努力し合って、よりよい職場の雰囲気作りに努めてほしい」とお話しいただきました。
松井先生からは実践報告について、ご本人、ご家族、企業、支援機関が良い関係を作っていることと、精神障がいのお二人が勇気をもって障がいをオープンにして就労することで支援を受けやすくなっていること、が重要とのコメントをいただきました。また会場からは、積極的にご質問をいただきました。
最後に、三鷹公共職業安定所の永野靖所長より閉会のご挨拶として、「生産人口が減少傾向にある中、全員参加型社会の実現に向けて、女性、若者、高齢者、そして障がいのある方の活躍が重要になってきています」「障がいのある方の活躍には、ハローワークと職能開発などとの連携に加え、地域の社会資源との連携が重要と考えているので、『チーム支援』によって一人一人の就労を実現していきたいと考えています」「今日のつどいの内容を今後の皆様の活動のヒントにしていただきたいと思います」と、お話しいただきました。
当日は143名の方々にお越しいただき、開催にあたっては多くの方々にご協力を賜り、心から感謝を申し上げます。また、ご後援をいただいた武蔵野商工会議所様、三鷹商工会様、武蔵野市民社会福祉協議会様、三鷹市社会福祉協議会様には広報活動にもご協力いただき、誠にありがとうございました。
参加した皆様からはアンケートのご回答をたくさんいただきましたので、ご意見を参考に、来年も期待に応えられるような「障がい者の就労を考えるつどい」を企画したいと思います。