障がい者の就労を考えるつどい 2018
『見えにくいニーズを見える化するには
~見えにくいニーズのある障がいへの理解と合理的配慮を進めていくために~』
のご報告
10月31日(水)、三鷹市・武蔵野市・ハローワーク三鷹の3所合同開催で「障がい者の就労を考えるつどい2018」を武蔵野スイングホール・レインボーサロンにて開催しました。今回で11回目になります。
今年度から民間企業の障害者雇用率が2.2%に引き上げられ、精神障がい者が雇用義務化となり、障がい者全体の雇用が促進されているところです。しかし、周囲からは支援や配慮に関わるニーズが見えにくいといわれる精神障がい、発達障がい、高次脳機能障がいや内部障がいのある方々の雇用は、なかなか進みづらい状況があります。見えにくいニーズを見える化するプロセスが不可欠と考えられます。
そこで、今年度のつどいでは、最近の状況を理解した上で、見えにくいニーズの見える化に向け企業が取り組むべきポイント、当事者や支援者が準備できることなどについて、報告およびディスカッションを通じて理解を深めることとしました。
開会にあたり、三鷹市長、武蔵野市長よりご挨拶をいただきました。三鷹市の清原慶子市長からは、障がい者の就労は障がい者自身が職業を通して自己実現できることが重要であり、そのために企業や地域、自治体がパートナーシップを形成すること、障がい者雇用の量よりも質を重視すべき転換期であること、合理的配慮を具体化するための見える化の過程が大事であること、障がい者雇用の推進によって人間が働きやすい職場について考える力になること、とのお話がありました。
武蔵野市からは健康福祉部長より松下玲子市長のメッセージを代読いただきました。市役所実習の取り組みは障がい者が実際の職場で就労の経験を積む場として役立っていること、見える化に課題のある発達障がい、高次脳機能障がいについては生活支援と就労支援の連携が重要であること、障がいを含む多様な方々への理解が進むことでだれもが生き生きできる職場づくり、地域づくりにつながる、とのお話がありました。
【行政報告「最近の障害者雇用の動向について」
ハローワーク三鷹 雇用指導官 田中 幸彦氏】
障害者の雇用状況については、昨年度の法定雇用率達成企業割合は全国が50.0%に比べて東京は34.1%と低くなっており、東京では従業員数1000人未満の企業での雇用の促進が課題なっているとのことです。東京の新規就職件数では精神障害者の増加率が高く、今後もこの傾向は続いていく見通しの中で、ハローワークでは「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」を開催しており、見えにくいニーズを見える化する基礎知識や職場での配慮点を企業の方々が学ぶ機会を設けていると紹介がありました。
【基調報告①「見えにくいニーズを見える化できる企業とは」
東京障害者職業センター多摩支所 主任職業カウンセラー 井上 量氏】
近年障がい者雇用の対象や対応が多様になっている中で、障がい者の抱える困り感や職場に対する見えにくいニーズに早く対応すること、見える化すること、が重要になっています。見える化の実現のために、障がいの理解、コミュニケーション、連携、雇用方針の明確化、変化をとらえる、の5つのポイントが示されました。障がいの理解については、障がいについて「知っているレベル」から「かかわれるレベル」にある従業員を増やすことが重要とされました。コミュニケーションについては、面談や日誌などの手段によって障がい者から「聴くこと」と働き手である障がい者に「伝えること」の両者をバランスよく行うことが重要とのことでした。連携は職場内の連携(職場担当者、上司、人事担当者など)と職場外の連携(ハローワーク、就労支援機関、医療機関など)によって支援体制を強化すること、雇用方針の明確化は企業が応えられるニーズを明確にして雇用方針を共有することが重要であること、変化をとらえるについては時間とともに企業も障がい者も変化することを前提に対応を検討する必要があること、とのお話しがありました。
【基調報告②「自分の困りごとを見える化するポイントとは」
ハローワーク三鷹 専門援助部門 精神障害者雇用トータルサポーター 島津 奈津美氏】
ハローワークの専門援助窓口にて面談を行っている経験から、障がいは同じでも状況には各々違いがあるため、障がい者全員に共通する配慮事項はなく、障がい者各々の個別の事情を確認しながら一緒に考えていくことが重要になる、とのことです。確認のポイントとしては、日中活動の安定度、コミュニケーションのスタイル、自分はなぜ働きたいか、医療機関の活用(体調のコントロール)の4つのポイントが示されました。日中活動の安定度は起床時間や日中の眠気、活動での疲れ具合などからはかることが必要であること、コミュニケーションのスタイルは苦手な状況や感じ方を自分自身の特徴ととらえることでスタイルを見える化して職場に伝えることができ、自分でも対処方法を考えておくとよいこと、との説明がありました。また、自分はなぜ働きたいかを考えることは働く希望や目的を明確にでき、今までの仕事探しの仕方を見直すことができること、医療機関の活用は体調のコントロールを主体的に行うために必要になること、とのことでした。これらのポイントから自分の困りごとを確認することで、企業や支援機関に相談するきっかけが見つかり、お互いの理解を深める手がかりとなる、とお話しされました。
【パネルディスカッション】
1.実践報告
オリンパス株式会社 人事部ダイバーシティ推進グループ 課長 龍田 久美氏
オリンパスの障がい者雇用の取り組みは、特例子会社(オリンパスサポートメイト株式会社)だけでなく本社での採用も進めており、多様な能力と特性を持った障がい者に対して多様な職場と業務内容を開拓するようにしているとのことです。人事部は本人だけでなく職場の管理職の支援も行っており、本人には丁寧な業務マッチングを基本に個別に合理的配慮面談などの支援を行い、管理職には障がい者むけ業務の開拓や個別面談、研修などの支援を行っている、とのことでした。求める人材は、障がいのあるなしにかかわらず「自分で考え、主体的に動き、最後までやり抜く人」で、採用時には「人の話を素直に聞ける人柄か」「障がい特性を自己認知し、受け入れができているか」などをポイントとしているそうです。精神障がいの方と一緒に働く工夫としては、特性をよく知るために支援機関との面談を定期的に行うこと、業務の依頼はメールや文章で行いお互いに確認できるようにすること、良かった点はほめて、悪い点は理由とともに伝えること、たまには雑談による小休止も大事であること、などと報告がありました。
【指定発言・質問】
①三鷹市から:就労移行支援事業所ワークショップハーモニーの利用者の方からの報告
前職は障がいをクローズにして働きましたが、気軽に勤務交代を頼まれ、結果的に勤務日数が増えてしまったのが困りました。先日職場体験実習に行きましたが、事前面談で配慮事項について「わかりやすく説明してほしい」「実習時間を短めに設定してほしい」と伝えることができてよかったです。実習中はわかりやすい説明を受け、時間も短くしてもらうことができ、会社から丁寧に仕事ができたとの評価を受けて自信が付きました。今後は、挨拶と報告・連絡・相談を身に着け、安心して仕事を任されるように、就労に向けて頑張りたいです。
②武蔵野市から:就労移行支援事業所ジョブアシストいんくるの利用者の方からの質問
様々な障がいをもった方が働く企業では、採用された障がい者の方が企業内で自分とは違う障がいを持った方と、どう接するかを学ぶ機会が必要と思いますが、そのような配慮はどのように企業内で設けられているのでしょうか。
【ディスカッション】
進行は、井上氏にお願いしました。
まず、②の質問に対して龍田氏からは、同じ障がいの方同士で日常的にコミュニケーションをとっていることはあり、コミュニケーションを取りやすいような橋渡しをすることがあること、違う障がいの方同士でうまくいかないことには対応をしていること、違う障がいの方同士がお互いの理解を深める研修の必要性は感じていること、とお答えいただきました。また進行の井上氏からは、「企業からは障がいのある方向けに障がい特性についての説明を求められることがあり、この質問は重要な視点であると思います。」と説明いただきました。
その後は事前質問や井上氏からの質問に演者の皆様にお答えいただき、「障がい者が働きやすい企業の見極め方とは」「企業内で起こるトラブルや対処方法とは」「配慮事項をまとめる必要性を理解してもらうには」などについて、学ぶことができました。
最後に、ハローワーク三鷹の須藤正雄所長より閉会のご挨拶をいただきました。障がい者の雇用は促進されていますが、まだ多くの障がい者が働くことを希望しています。多様な能力を発揮してもらうために、ハローワークも当事者、支援者、企業、行政など、参加者の皆様と手を携えて取り組んでいきたいと思います、とお話しいただきました。
当日は147名の方々にお越しいただき、開催にあたっては多くの方々にご協力を賜り、心から感謝を申し上げます。また、ご後援をいただいた武蔵野商工会議所様、三鷹商工会様
、武蔵野市民社会福祉協議会様、三鷹市社会福祉協議会様には広報活動にもご協力いただき、誠にありがとうございました。
参加した皆様からはアンケートのご回答をたくさんいただきましたので、ご意見を参考に来年も期待に応えられるような「障がい者の就労を考えるつどい」を企画したいと思います。